個人賠償責任補償特約を外すと管理組合にとってどんなや懸念が考えられるか?
マンション共用部の火災保険について「火災保険料の値上げについてどうしたら良いものか?」とマンションの管理組合役員の方からお電話やメールで相談を受ける事がとても多くなってきました。
内容はほとんど次のような相談です。
「自分のところのマンション管理組合の火災保険、マンション管理組合の火災保険料が大幅に値上げする。保険代理店からのおすすめもあって、対応策として個人賠償責任保険を外し保険料の節約を図りたい。マンション居住者個々が起こしてしまった事故は自分の個人賠償責任保険を使ってもらいたいと思うのですが・・・」というものです。
確かに個人賠償責任保険は、ほとんどの各家庭で加入しているケースが多いのが実態でしょう。自己責任という言葉が多く出てくる今の時代ですから、この考え方については一定の理解はできます。マンション管理組合で個人賠償責任保険を付保したならば、入居者の方々は「マンション管理組合で加入している個人賠償責任保険と個人で加入している個人賠償責任保険」の補償が重複している事も考えられますので、マンション共用部分の火災保険を節約する一つの手段と言えます。
では、個人賠償責任保険は各家庭で用意してもらうとして、マンション管理組合の火災保険では、個人賠償責任保険を付保しないとどのような事が考えられるでしょうか?
1つ目の懸念「水漏れ事故が起きたらどうする?」
マンションの給排水管などから水漏れが起きてしまい、居住者の天井や壁を水浸しにしてしまったといった事故が起きてしまった場合ですが、マンションの水漏れ事故は原因が分からないことが多く、調査を要する事があります。そして調査の結果、
共用部分が事故の原因なら→施設賠償責任保険
居住者の専有部分が事故の原因なら→個人賠償責任保険
となることが考えられます。
居住者が事故を起こしてしまったら、事故を起こした居住者が責任を負うことになります。仮にですが給排水管が床の下など見えない場所にあったとしても持ち分が専有部であればその居住者の責任になることが考えられます。見えない給排水管の場所からの水漏れであっても、自分の持ち分の給排水管から水が漏れていたら自分の責任になるのか!と事故が起きた後に気がついても残念ながら遅いといえます。
その事故の原因が居住者にあると分かった時に居住者の加入している個人賠償責任保険を使用することになります。
どこの給排水管から水漏れの原因が起きているのか?分からない場合は、施設賠償責任保険の保険会社と個人賠償責任保険の保険会社、両方の保険会社に事故の報告をしておく必要があります。
水漏れ事故がマンション居住者の持分割合の給排水管によるもので、個人賠償責任保険に入っていなかった場合は、その居住者個人が被害者の損害物(住居や家財)に対して法律上、支払いの責任を負う必要が出てきます。ここで、マンション管理組合が入る火災保険に個人賠償責任保険の補償がなく、更に事故を起こした居住者が個人賠償責任保険も入っていなかったら、修理費は事故を起こした居住者の自己負担となりますが、損害額が大きい等、場合によっては加害者(水漏れを起こした居住者)が損害賠償金を払うことができないという最悪のシナリオとなるリスクがあるものと考えておきましょう。
マンション管理組合の火災保険で個人賠償責任保険を加入しておけば、余計な時間や、水漏れ原因は共用部なのか?それとも専有部なのか?といった精神的な不安がありません。
2つ目の懸念「居住者が個々に個人賠償責任保険に加入していなかった時はどうする?
「今時、個人賠償責任保険に入っていない人はいないだろう」と考えるのは早計だと思います。確かに個人賠償責任保険の加入率は増えているように感じさせられますし、ましてマンション等の集合住宅にお住まいの人は水漏れ事故の心配から自分を守るために※も何らかの形で個人賠償責任保険の加入をしている人は多いと考えられます。
※何らかの形とは、自動車保険の特約や火災保険の特約等、損害保険商品の特約で付いている事。
ところが、世帯数が30世帯程の小規模マンションならば、個々で加入をしている個人賠償責任保険の付帯の確認はできるでしょうが、世帯数が100~300等の中、大規模マンションでは、居住者個々の個人賠償責任保険付帯の確認を取るのは容易ではありませんし、実態上の確認作業はかなり難しい※と言えます。
※参考
弊社のご契約者である大規模のマンション管理組合の調査結果では個人賠償責任保険の個人の付保率は60%~70%の水準でした。
個人賠償責任保険は自動車保険や火災保険などの特約やクレジットカード等の付帯サービスについている事がほとんどです。例えば自動車保険では、居住者が自動車を手放した時は自動車保険も解約することになります。そうなりますと特約である個人賠償責任保険も同時に解約になってしまいます。運転免許証を返納し自動車の運転をやめた人が、個人賠償責任保険は他の保険の特約等に付けなければならないと、そこまで気がまわるでしょうか?
分譲マンションで個々に加入される火災保険の場合、住宅ローンを利用して長期で火災保険に加入していることも多いのですが、昔は今と違って個人賠償責任保険の意識も薄く、35年等の住宅ローンに合わせて加入する火災保険に個人賠償責任保険を付けていない人も多くいるでしょう。
このような事からも、状況によっては個人賠償責任保険を加入されていないこともあり、「今時、個人賠償責任保険に入っていない人はいないだろう」とお考えにばられるのはいかがなものでしょうか?
マンション居住者が個人賠償責任保険を付いていないケースとは?
弊社は損害保険のプロ代理店ということもあり、個人賠償責任補償特約はほとんどのお客様へ説明して損害保険契約に付帯をするようアドバイスをしています。顧客との会話の中で、個人賠償責任保険を付帯していない理由は次のケースが多くありました。
- そもそも個人賠償責任保険を知らないから未加入になっている。
- 個人賠償責任保険は自動車保険に特約で加入していたが、車を手放したので個人賠償責任保険は未加入となった。
- 個人賠償責任保険は傷害保険に付けていたが引受年齢の関係で満期で更新しなかったので個人賠償責任保険は未加入となった。
- 個人賠償責任保険は火災保険に付けていたが満期の更新をしなかったので個人賠償責任保険は未加入となった。
- 損害保険(自動車保険、火災保険)に加入していない為、個人賠償責任保険も未加入。
上記とは他に、個人賠償責任保険に入っていてもマンション管理組合で入っているだろうから補償が重複するので自分は個人賠償責任保険を付けないという人も中にはいる事が考えられます。
マンション居住者の皆様が日常生活の変化(年齢的に車を手放す、リスクが少なくなったので傷害保険や火災保険の加入をやめる等)主契約を解約されることにより個人賠償責任補償特約は付いたり外れたりするものです。
管理組合が加入するマンション共用部の火災保険の特約に付けておけば「居住者がうっかり個人賠償責任保険を加入していなくて漏水事故が起きて困った」という問題は回避されます。
保険料が高いという理由で個人賠償責任保険外す事は管理組合の役割という点ではどうなのか?
株式会社住宅あんしん保証HPより「マンション管理組合の具体的な業務内容」より引用
区分所有法にある「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」とは、具体的にどのような業務を指すのでしょうか。管理組合が行う業務については、通常、管理組合が定める管理規約に記されています。その参考となるのが、国土交通省が作成し公表している標準管理規約です。
標準管理規約(単棟型)の「第2節 管理組合の業務」を見ると、管理組合は、管理組合が管理する敷地及び共用部分等(組合管理部分)の保安、保全、保守、さらには清掃、消毒及びごみ処理を行うとされています。管理部分の修繕、そして長期修繕計画の作成、または変更に関する業務、長期修繕計画書の管理も重要な業務です。
他には、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理、共用部分等に係る火災保険その他の損害保険に関する業務なども含まれます。細かいところでは、風紀・秩序・安全の維持に関する業務、防災に関する業務、広報及び連絡業務にも配慮するといったことも記されています。
平成27年10月の火災保険改定により、各保険会社はマンション総合保険の保険料を大幅に値上げしています。保険料は2倍、3倍となるケースもあり、例えば、今まで保険期間が5年間で500万円程の保険料が次の更新では、2倍の1,000万円になってしまうというケースは珍しくありません。
今まで管理組合様から相談を受けてきた中で、同じ条件でマンション総合保険を更新すると「保険料は最高で4倍に値上げ」となる事案が最高額で、とにかくマンション総合保険の満期を迎えると今までの保険料が大幅に値上げとなってしまうために、その値上げ幅に対して信じられないと思われる管理組合様も少なくありません。
この保険料のUPした分は個人賠償責任保険(包括契約用)を外して居住者がマンションで起こした個々の事故は居住者に責任を負ってもらい、管理組合は保険料を抑えたいという相談を受ける管理組合様がいくつかありましたが、マンション共用部の事故の大半は居住者の専有部分の給排水管からの水漏れ事故が多いという実態があります。
つまり大幅な保険料UPを回避するために個人賠償責任保険は居住者各自の保険を使ってもらう事とし、マンション総合保険の個人賠償責任保険(包括用)を対象外とするのは、実際に事故が起きた時に加害者(水漏れ事故を起こした居住者)が下の階などに与えた損害について金銭的に払えないといった事や、今まで管理組合で個人賠償責任保険が付いていたのに外したとは聞いてない!と加害者、被害者からのクレームやトラブルが考えられますので、個人賠償責任保険を外すのは危険と思います。
個人賠償責任保険を外すのでしたら、果たして、マンション管理組合の役割として区分所有者全員に個人賠償責任保険の付保がないことを確実にお知らせることができるでしょうか?
マンション管理組合の皆様が安心できる補償内容、そしてトラブル回避の為にも個人賠償責任保険(包括契約)は必要です。
高経年マンションの個人賠償責任保険は築浅マンションと比較すると給排水管が劣化してきますので、個人賠償責任保険を使用する確率も高いと言えます。「リスクのある事故に備えるのが保険」です。マンション管理組合の個人賠償責任補償特約(包括用)で用意しておきましょう。
~まとめ~個人賠償責任補償特約(包括契約用)は外さない方が良い
あなたの管理組合のマンションに若いご夫婦が「中古マンションを購入しよう」と思った時に、築古のマンションでも清掃も行き届いていて外壁も定期的に塗装され外面はきれいなマンションならここで住みたいと考えると思います。
しかしそのマンションが長期間、給排水管のメンテナンスが行われていなかったり、個人賠償責任保険の付保がないなど目に見えない部分の事が分かったら、その若いご夫婦はどう思うでしょうか?
- どうして管理組合の火災保険に個人賠償責任補償特約が付いていないのだろう?
- 給排水管の更新・更生工事が行われていないのは何故だろう?
- もしかしたら修繕積立金が他のマンションと比べて少ないのではないだろうか?
マンション管理組合として個人賠償責任補償特約(包括契約用)の加入は事故の為だけでなく入居者の為にも付保しておくほうが良いと思います。
付保しておかない時のリスクは
- 管理上の負担。(保険会社と相談ができない為、管理組合、管理会社が事故相談の窓口になったりする負担など。)
- 事故を起こした居住者(加害者)と被害者の負担。
- 居住者が無保険の場合に修理代金の支払いを巡り居住者(被害者と加害者)と管理組合でトラブルとなる可能性も。
- 事故は起きているのに、水漏れの原因調査や、誰がいくらの金額を支払うのか?の大切な事が決まらずに修復の工事が進まない(又は遅延する)可能性。
- 事故の際に、居住者の加入している個人賠償責任保険に示談交渉のサービスがないと保険会社が示談できないため、スムーズに進まない事もあります。
保険料を抑える為にどうしても個人賠償責任補償特約を見直すという事でしたら、個人賠償責任補償特約の保険金額を低めにセットすることを検討されても良いかと思います。
マンション共用部の個人賠償責任補償特約(包括契約)は戸建て住宅にはないマンション共用部の特徴的な商品です。居住者の皆様が住みやすく安心な生活を送ってもらう為にも、個人賠償責任補償特約(包括契約)の付保をおすすめします。
築古のマンションでも若い人に人気のあるそんな資産価値の高いマンションを目指すためにも個人賠償責任補償特約は外さない方が良いというのが弊社(あおば総合保険株式会社)の見解になります。参考にされてください。
中古マンションを購入しようとしているご夫婦
マンションの管理状況は、住み心地への影響や建物・資産価値を保つためにも重要!
日本最大級の不動産・住宅情報サイト ライフルホームズによると、次のような記載があります。
マンションの管理とは、住人が安全・快適に暮らせるように建物や設備を良好な状態に保つためのものです。適切な管理がされないと、建物の劣化に繋がり、住み心地や資産価値にも影響します。
LIFULL HOME'Sでは「管理組合の運営状況」「建物設備の維持管理状況」や「修繕計画」といったマンション管理の重要なポイントをプロが評価した結果をWEBで誰でも見られるようにしました。
つまり、マンションの管理状況をWEBで公開するので、公開している管理状態を中古マンション購入の意識のある人に見せてマンション選びの一つの判断材料として欲しいということになります。
給排水管の劣化により水漏れ事故が多発。その関係で保険料が値上がってしまったので、個人賠償責任補償特約を外して一時的に経費削減という考え方の管理組合では、次の世代がそのマンションを購入する際に躊躇うのではないでしょうか?